開発状況

呼吸器疾患:全身性強皮症に伴う間質性肺疾患治療薬


全身性強皮症は、皮膚と多くの臓器が固くなる変化である線維化と血管障害を特徴とする全身性の自己免疫疾患で、「難病医療法」に基づいて国が指定した難病(指定難病51)です。日本では2万人以上の 患者が確認されていますが、その病因は不明で、根治的治療は存在しません。

全身性強皮症は、「免疫異常」、「血管障害」、「線維化」を主要3病態として、 臓器線維化による臨床症状として、レイノー症状1)、皮膚硬化、間質性肺疾患、強皮症腎クリーゼ2)、心病変、肺動脈性肺高血圧症3)など、さまざまな多臓器障害を生じ、他の自己免疫疾患に比してステロイドや免疫抑制薬の効果は限定的です。特に間質性肺疾患は死因の35%を占めており、また間質性肺疾患が直接の死因とならない場合でも、高度な呼吸機能低下により生活の質(QOL)や日常の生活動作(ADL)の著しい低下を招きます。間質性肺疾患に対しては、ステロイドや免疫抑制薬が第一選択薬とされていますが、その治療効果は限定的です。また、抗線維化薬4)であるニンテダニブが承認されましたが、その効果は間質性肺疾患の進行抑制作用に留まり改善作用は認められていません。そのため全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の改善が得られる新規治療薬の開発が強く望まれております。

RS5614は、非臨床試験において、炎症、血管障害、血栓、線維化(肺線維化を含む)を抑制することが確認されております。RS5614を全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の動物モデルに連日経口投与したところ、RS5614は肺線維化を用量依存性に低下させ、その効果は既存治療薬であるニンテダニブより優れており、新規治療薬として期待されます。またRS5614は肺傷害の治療薬として、2020年から行われた新型コロナウイルス肺傷害の第Ⅱ相医師主導治験においても有効性が示唆され、安全性を確認しております。

全身性強皮症に伴う間質性肺疾患を対象として、RS5614の有効性と安全性を確認するためのプラセボ対照二重盲検試験5)(探索的第II相試験)を、2023年10月から東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学、横浜市立大学、札幌医科大学、藤田医科大学の国内10大学の医療機関で、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患50名を対象に開始し、2024年12月には目標症例数である50症例の登録が完了し、現在実施中です。本試験はAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されています。

1) レイノー症状
冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状で、冬に多く見られ、初発症状として最も多いものです。

2) 強皮症腎クリーゼ
腎臓の血管に障害が起こり、その結果高血圧が生じるものです。急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。

3) 肺動脈性肺高血圧症
ヒトが生きるためには呼吸をして大気中の酸素を肺に取り込む必要がありますが、肺 で呼吸するだけでは体の中に酸素は取り込めません。肺に取り込んだ酸素を、心臓に一 度戻して、さらに全身に送る必要があります。心臓から肺に血液を送るための血管を肺動脈といいます。この肺動脈の血圧が異常に上昇するのが肺動脈性肺高血圧症です。肺動脈の圧力が上昇する理由は、肺の細い血管が異常に狭くなり、また硬くなるために、血液の流れが悪くなるからです。必要な酸素を体に送るためには、心臓から出る血液の量を一定以上に保つ必要があります。狭い細い血管の中に無理に血液を流すように心臓が努力するために、肺動脈の血圧が上昇します。肺動脈性肺高血圧症は難病に指定されています。

4) 抗線維化薬
その名の通り、組織の線維化を抑える薬です。線維化がおきていると判断される方や 今後、線維化が進行することが予想される患者さんに処方されることがあります。抗線維化薬にはピルフェニドンとニンテダニブをいう2種類があります。

5) プラセボ対照二重盲検
対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法であり、医師が効果の期待される患者に対して治験薬を投与するなどの機会を減らし、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。

(出典:神戸市立医療センター西市民病院 https://nishi.kcho.jp/disease/systemic_scleroderma.html