開発状況

固形がん:悪性黒色腫治療薬


悪性黒色腫は、表皮にある色素を作るメラノサイトと呼ばれる細胞が悪性化したがんで、皮膚がんの中でも転移率が高く、きわめて悪性度が高いとされています。全国がんセンター協議会の調査(2010~2014年集計)によれば5年生存率はステージ3(リンパ節や周囲の皮膚・皮下に転移があるステージ)で54.7%、ステージ4(他の臓器に転移があるステージ)で8.3%と治療が極めて困難な疾患です。

現在の治療と課題

悪性黒色腫は悪性度が高く治療が困難な疾患ですが、2014年に免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体が承認され、それに続く新薬の開発により薬物療法は画期的に進歩しました。

免疫チェックポイント阻害薬は、最初に京都大学の本庶佑先生らにより免疫細胞が持つ免疫のブレーキ(免疫チェックポイント分子)PD-1が発見され、それに対する抗体医薬品として抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害薬、ニボルマブ、商品名はオプジーボ)が新たながんに対する治療法(がん免疫療法)として開発されたものです(2018年、ノーベル賞受賞)。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ(免疫チェックポイント分子)を解除して、免疫ががんを攻撃できるようにします。

日本における悪性黒色種は欧米とは異なり、ニボルマブが効きにくいタイプの末端黒子型の比率が高いため、ニボルマブの効果は十分ではなく、さらにニボルマブが無効な患者に対する新たな二次治療法の開発が望まれています。

現在、ニボルマブの併用薬として、別の免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用が保険適応で認められており、がんの縮小の割合を示す奏効率が、ニボルマブ単剤と比べて13.5%と高いことが報告されています。しかし、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は、半数を超える患者に重篤な副作用が出現し、単剤投与に比べて投与中止となる重度の免疫関連副作用の発現頻度は4倍と高く、数か月に及ぶ入院やがんに対する治療の停止が必要となることが社会問題ともなっています。さらに、2つの抗体を用いることにより高額医療費の課題もあり、安全かつ廉価で、利便性に優れた新たな二次治療法が望まれています。

<日本と欧米における治療効果の違い>

当社のソリューションの特徴

当社は、PAI-1が免疫チェックポイント分子を介してがん免疫を阻害することを見出しました。動物モデルでの試験で、RS5614が悪性黒色腫や大腸がんなどの腫瘍の増殖を阻害すること、さらに免疫チェックポイント阻害抗体単独でも腫瘍の増殖が阻害されますが、免疫チェックポイント阻害抗体にRS5614を併用することで相乗的にがん免疫が増強されました。その結果、RS5614と免疫チェックポイント阻害抗体の併用により、がんの増殖が強く抑制され、がん腫によっては腫瘍が退縮しました。PAI-1阻害薬は抗PD-1抗体が作用し易いように腫瘍内免疫環境を改善することが明らかとなりました。

第Ⅱ相医師主導治験

NPO法人「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学と共同で2021年9月から2023年3月に、一次治療無効(根治切除不能で抗PD-1抗体不応答)悪性黒色腫患者を対象としたTM5614とニボルマブ併用時の忍容性及び安全性の確認を目的とする第Ⅱ相試験を、東北大学病院を含む全国7施設における多施設共同医師主導治験として実施しました。

本治験の結果、悪性黒色腫患者29例に対して、当社が開発したPAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、主要評価項目で7例において奏効が見られました(奏効率 24.1%)。

奏効率                 奏効評価

この奏効率は、現在承認されている、ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性と同等以上の成績でした(ニボルマブ無効例におけるニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率は、海外21%、国内13.5%)。また、ニボルマブとRS5614の併用による疾患制御率は62%に達しました。ニボルマブとイピリムマブ併用では重篤な免疫関連副作用が多発することが問題となっていますが、ニボルマブとRS5614の併用においては特に問題となる重篤な副作用も見られていません。2024年2月には治験総括報告書が作成されました。また、2024年6月に、本治験の結果が科学誌『British Journal of Dermatology』に掲載されました。

現在までの進捗

悪性黒色腫の次相試験に関して、2023年12月にPMDA対面助言を実施し、臨床プロトコールを確定し、2024年8月には厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾患用医薬品の指定を受けました。本指定により、PMDAの優先的な指導・助言、薬価算定における市場性加算、さらに承認後の再審査期間が延長され本治療薬事業の独占期間が長くなることが見込まれます。また、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置を受けられる可能性があります。

2025年2月18日、最初の被験者への投与が東北大学病院で実施され、RS5614の悪性黒色腫の第Ⅲ相試験が開始されました。本治験は、根治切除不能悪性黒色患者124例を対象に、ニボルマブとのRS5614の併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相ランダム化プラセボ対照二重盲検医師主導治験(登録予定期間 1.5 年、観察予定期間 3 年)であり、東北大学病院など国内18施設(東北大学病院、札幌医科大学附属病院、弘前大学医学部附属病院、自治医科大学附属さいたま医療センター、国立がん研究センター東病院、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院、新潟県立がんセンター新潟病院、静岡県立静岡がんセンター、名古屋市立大学病院、筑波大学附属病院、岐阜大学医学部附属病院、島根大学医学部附属病院、愛媛大学医学部附属病院、九州大学病院、九州がんセンター、熊本大学病院、鹿児島医療センター)で実施されます。主要評価項目は全生存期間 (Overall survival ;OS)です。