開発状況

固形がん:非小細胞肺がん治療薬



肺がんはがん死亡原因のトップである予後不良の疾患です。国内で、肺がんと新たに診断される人は年々増加しており、2019年には肺癌の罹患数は、男性84,325人、女性42,221人であり、2020年の死亡数は男性53,247人(男性1位)、女性22,338人(女性2位)です。肺がんを組織型で分類すると頻度が高いものは「小細胞がん」「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」であり、このうち小細胞がん以外は非小細胞肺がんに分類されます。肺がんの80-85%が非小細胞肺がんです。

現在の治療と課題

非小細胞肺がんの治療法は主に「手術」、「薬物治療」、「放射線治療」に大別され、これらを組み合わせて行なわれます。治療法は病期(ステージ)によって異なり、主に手術の対象となるのはI期とII期及びIII期の一部で、IV期は、他の臓器に肺がんが転移している状態のために、主に薬物治療になります。

現在、非小細胞肺がんの薬物治療は、ドライバー遺伝子(がんの発生や進行に直接的な役割を果たす遺伝子)に変異がない進行非小細胞肺がんに対する1次治療には、プラチナ製剤による化学療法と免疫チェックポイント阻害薬が用いられていますが、治癒に至る症例は少ないことが課題になっています。そこで、2次治療としてドセタキセル等の化学療法が実施されますが、がんが進行せず安定した状態は3か月と短く、3次治療が必要となります。3次治療としては、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用療法が選択肢となっていますが、免疫に関連した副作用が増えること、さらに2つの抗体を用いるため医療費が高額となることなどの課題が問題となっています。未治療進行・再発非小細胞肺がんを対象とした多施設共同臨床試験(JCOG2007試験、特定臨床研究)においては、予期していた範囲を超える約7.4%(148人のうち11人)の治療との因果関係を否定できない死亡が認められ、2023年3月30日に本試験は中止されました。そのことから、悪性黒色腫治療と同様に、進行非小細胞肺癌における3次治療として、抗PD-1抗体の有効性を改善させる薬剤が待ち望まれています。

当社のソリューションの特徴

当社は、悪性黒色腫の研究開発において、RS5614が免疫チェックポイント阻害作用を有すること、またニボルマブとの併用でさらにその効果が増強されることを見出し、第Ⅱ相医師主導治験でニボルマブ無効例に対して、ニボルマブとRS5614の併用が有効であることを確認しました。本研究はその知見を非小細胞肺がんに応用しています。当社と広島大学との共同研究で非小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、悪性黒色腫モデルと同様に、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。

また、広島大学での研究から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、さらにニボルマブに耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなどからも有効性が期待されます。

RS5614は安全性が高い薬剤であること、また化学合成で製造されますので安価である点も特徴です。重篤な副作用が多数発生するニボルマブとイピリムマブの併用よりも、ニボルマブとRS5614の併用が有用である可能性が考えられます。

当社は、悪性黒色腫と同様に、RS5614が有する免疫チェックポイント阻害作用に基づいて、広島大学などと共同で本研究を開始しました。2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした第Ⅱ相医師主導治験を行っています。

当社は、2022年10月に広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の複数の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施しています。