開発状況

呼吸器疾患:新型コロナウイルス肺傷害治療薬


現在の治療と課題

新型コロナウイルスは国内では2020年1月15日に初めて感染が確認され、これまでに感染した人は累積で3100万人に、亡くなった人は6万2000人にのぼると言われています。新型コロナウイルスは感染が始まって以来、変異を繰り返し、変異株の「デルタ株」の広がりでは、肺炎で呼吸困難となる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進行し、重症化する患者が相次いで医療体制がひっ迫しました。軽症患者では自宅療養や宿泊療養の措置がとられましたが、発病当初は軽症であっても、急速に重症化する一部の患者の存在が問題になりました。

「オミクロン株」変異では、感染力が強く患者数は急増しましたが、呼吸器疾患の併発は少なく、多くの患者が無症状または軽症で経過し、ワクチン接種も進み重症化する患者は激減しました。2023年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「2類」から「5類」に引き下げられ、感染対策も緩和されましたが、新型コロナウイルスが収束したわけではなく、免疫を逃れる方向での変異も繰り返されており、現在も感染力が強い、あるいは重症化する新たな変異ウイルスの出現や拡大が懸念されており、今後の状況を注視する必要があります。ご自宅あるいは外来で治療を受ける患者が増加すると考えられますので、ご自宅で簡便にまた安全に服用していただけ、呼吸器疾患による重症化を阻止できる内服薬が今後ますます重要になると考えられます。また新型コロナウイルス後遺症の治療が進んでいないことも課題として残っています。

当社のソリューションの特徴

当社は、過去の3年間の新型コロナウイルスのパンデミックで、貴重な教訓をえることができました。肺は、肺胞というブドウの房の形をした小さな袋が数多く集まって形成されています。肺胞の壁にあたる「間質」は、酸素や二酸化炭素の通り道になっています。新型コロナウイルス感染で生じた間質性肺炎は、この間質が炎症で厚くなり、厚くなった間質が硬くなって残る線維化によって酸素を取り込みにくくなりました。また、新型コロナウイルス肺傷害では、肺内のフィブリンというタンパクで血管がつまる微小血栓も特徴的に見られました。当社が開発中のRS5614は、炎症、線維化、血管障害を抑制しますので、新型コロナウイルスによる「間質性肺疾患」での有効性が考えられます。

RS5614は、間質性肺疾患の重症化を防ぐ治療薬、特に外来での処方も可能で自宅でも服用できる安全性と利便性の高い予防・治療薬(内服薬)になると考えられます。また、抗ウイルス薬やワクチンは、変異を続けるウイルスに対抗して研究開発を繰り返す必要がありますが、RS5614の間質性肺疾患に対する作用はウイルス変異によって研究開発を繰り返す必要がありません。さらに、他の疾患に伴う間質性肺疾患にも使用できるものと考えられます。現在は、新型コロナウイルス感染が落ち着いている時期ですが、RS5614の間質性肺疾患に対する研究開発を継続して、患者の延命のみならず、医療現場の負担軽減や医療資源の有効活用にも寄与したいと考えています。

前期第Ⅱ相試験

新型コロナウイルス肺炎患者に対するRS5614の重症化阻止効果と安全性を探索的に検討する目的で、国内7か所の医療機関で前期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。「デルタ株」が流行の2020年10月に最初の被験者が登録され、2021年3月に完了という迅速かつ効率的な治験となりました(2021年6月に治験総括報告書が完成)。プラセボ群をおかない試験で有効性の確認は困難でしたが、主要評価項目の「人工呼吸器管理が必要となる悪化の有無」で全例26例で「なし」であったこと、治験薬と因果関係が否定できない重篤な副作用がなかったことより、本治験薬の有効性及び安全性が示唆されたとまとめられました。

後期第Ⅱ相試験

前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20の大学等の主要医療機関と共同で、新型コロナウイルス肺傷害患者(中等症、入院患者)100名を対象とするプラセボ対照の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本試験は、2021年4月の独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との事前面談に基づき 実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。感染者数が激減した時期やオミクロン株の出現により対象となる新型コロナウイルス肺傷害患者(中等症、入院患者)が減少したために、2022年10月末まで治験を延長し(登録症例数75例)、2023年4月に治験総括報告書が完成しました。

有効性の主要評価項目は、登録症例数が75例と少なかったこともありRS5614群とプラセボ群の間に統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で肺傷害悪化の抑制が見られ、特に入院時点で肺炎所見があり、呼吸困難はあるが、酸素治療を必要としない中等症Ⅰ患者で酸素治療の必要性の低減(重症化の阻止)が見られました。さらに、被験者全体(中等症Ⅰ、Ⅱ)でも酸素の投与が必要となる症例の割合が、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、新型コロナウイルス感染症に伴う肺傷害患者に対するRS5614の安全性も確認できました。そのことから、中等症Ⅰの肺炎患者への有効性が期待され、今後、重症化リスクの高い在宅の軽症患者も含めた対象への効果等、さらに検討が必要とまとめられました。これら前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の成績は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に 掲載されました。

今後の予定

RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、間質性肺疾患に対する内服薬です。現在、新型コロナウイルス感染は落ち着いていますが、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「2類」から「5類」に引き下げられたことに伴い、ご自宅あるいは外来で治療を受ける患者が増加すると考えられます。間質性肺疾患を起こす新たな株の発生に際して、速やかに次相臨床試験を実施できるよう準備をしています。