ビジネスモデル

レナサイエンスの研究開発の特徴

① 多様なモダリティ開発(医薬品、医療機器、プログラム医療機器)

当社は医療課題を解決し、ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したいと考えています。医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。さらには近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えております。医薬品、医療機器、さらには人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器やアプリなど、医療での治療オプションも広がりつつあります。そのため、これまでの当社の主体である化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出しています。

② 少子高齢化の医療課題に取り組む

世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う重要な疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患が対象となっています。2023年の全世界の死亡者数の74%がこれら疾患で亡くなっています(WHO、News room)。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としており、先進国のみならず新興国でも重要な医薬品を開発しています。また、少子化問題も重要な社会的課題ですが、少子化問題に注力している製薬企業は多くはありません。当社は、女性(月経前気分不快障害、更年期障害、乳がんAI診断)や小児(フェニルケトン尿症迅速診断)の医療課題にも注力しています。

③ アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワーク

医療イノベーション創出におけるアカデミアなどの公的研究機関や医療機関の役割も広がりつつあります。従来からの低分子医薬品と異なり、遺伝子工学等を利用したバイオ医薬品の技術基盤やシーズは大学等の公的研究機関にあります。また、人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データも企業ではなく医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関や診療科と複数の医療分野で医師主導治験を実施しているために、医師から医療現場の課題をお聞きする機会が多くあり、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間でビッグデータが取得しやすい環境にあります。当社は自社のリソースや研究環境にこだわるのではなく、むしろ外部リソースや外部環境を積極的に活用することにも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築したいと考えています。後述するように、東北大学と広島大学に研究開発拠点を持ち、オープンイノベーションを推進しています。

④基礎研究から医師主導治験まで一気通貫での開発

当社は、基礎研究からはじまり治療のコンセプトやアイデアを着想し、医薬品、医療機器などの「モノづくり」を行っています。適切な動物や細胞を用いた必要な非臨床試験を終了し、必要なヒトにおける臨床試験(治験)で実証し、出来れば販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応したいと考えています。例えば、2022年12月に承認を得た医療機器である極細内視鏡は、製品開発から非臨床試験の実施、臨床試験(研究を実施している医師が自ら行う医師主導治験)の終了まで複数の大学と共同で開発を進め、国外医療機器企業に導出後に承認申請を行いました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病の治療薬は現在、承認申請に必要な最後の臨床試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、今後も希少疾患などの領域では第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。その理由は、希少疾患などの治療薬は開発コストが大きい場合、大手製薬企業では注力されにくい場合があるからです。自社で承認に近いところまで開発することで、確実に重要なシーズを社会実装することが可能です。また、開発ステージが後期の段階で導出した方が、当社の受け取る対価も大きくなるので、株主の皆様にも還元出来ると考えるからです。

⑤医師主導治験の活用

当社の臨床試験は、研究者でありかつ医師であるphysician scientistによる医師主導治験です。当社は、これまで28件に及ぶ医師主導の治験等の実績があります。医師主導治験の圧倒的な利点は、「質」と「スピード」、すなわち「効率」です。医師主導治験では、最新の研究成果に触れることが可能な研究の最前線にいて、医療現場では患者を日々診療している医師が、適切な患者対象と試験計画を立案することができます。また、医師自ら治験を実施できるので、未承認薬の初期段階の治験(有用性や安全性を最初に確認する段階で、探索的臨床試験と言われる)には、適した治験の枠組みです。また、オーファン疾患(希少疾患のこと。患者数が少ないので売上も多くを望めない。)の治療薬開発は、収益性が低いために製薬企業が着手しないことから、最初から最後まで医師主導治験で行わざるを得ない場合もあります。研究開発費用のほぼ大半は、基礎研究段階では無く、臨床開発段階で費やされるものです。医師主導治験は、最先端の大学等の科学技術成果を速やかに活用でき、治療の対象となる患者を治験実施医師が適切に選択できることから、開発コストを削減できます。適切な治験調整医師を見出し、大学など複数の大きな医療機関の支援を得られた場合、企業治験に比べて医師主導治験は大きなアドバンテージがあり、短期間に大型の治験も実施できるために、当社は他社と異なりこの治験の形を優先しています。

2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けましたが、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。法改正当時は、海外承認国内未承認の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬が医師主導治験の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学等の医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大やオーファン疾患が対象」という印象がいまだに強いのだと思います。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認(国内未承認)薬や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。

当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)を遵守して実施しています。また、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施しています。そのため、承認申請や許認可を得る上で使用することができます。また、当社の医薬品は未承認の薬剤で知財も確保していますので、独占的な事業化が可能であり、充分な収益を得ることが可能です。

⑥オープンイノベーションに基づくエコシステムの形成

これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程を積み上げていく)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くはパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用し、コストを含めた開発効率を高めるための開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えます。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。

⑦レナサイエンスオープンイノベーションラボ(REx)開設による複数大学との包括的共同研究推進

当社は2022年1月、東北大学大学院医学系研究科メディシナルハブ(宮城県仙台市青葉区星陵町2−1 医学部5号館)に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)を開設しました。当社は創業当時、腎臓病の疾患動物モデル飼育施設を包む研究所を神奈川県・川崎バイオ特区に有しておりました。その後、研究対象が腎臓病から多くの疾患領域に拡大し、研究段階が基礎から治験へ進むにつれ、当初の腎臓病の疾患動物モデルを主体とした研究所は閉鎖しました。しかし、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、TRExの開設に至りました。TRExは2021年4月に締結された「仙台市と東北大学との地域経済発展に関する協定」に基づく拠点立地の第一号案件でもあります。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にも繋げられています。当社の強みである研究開発の高い効率性をさらに加速することができています。

また、2023年4月に広島大学と包括的連携協定を締結し、広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(HiREx)を開設しました。HiRExを活用して、非小細胞肺がんや皮膚血管肉腫など医薬品の医師主導治験、糖尿病治療支援AIや維持血液透析医療支援AIなどのプログラム医療機器の臨床性能試験など複数の臨床試験を実施しています。

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