毛髪は、毛が伸びる成長期、毛が抜けやすくなる退行期、毛が抜ける休止期があります。男性型脱毛症(AGA)は、毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり、休止期にとどまる毛包(毛根を包み成長させる組織)が多くなる病態であり、前頭部や頭頂部の頭髪が、軟毛化して細く短くなり、最終的には禿げになります。日本人男性では、20 歳代後半から徐々に進行し、50代以降で 40 %以上になります。男性型脱毛症の発症には遺伝と男性ホルモンが関与します。
米国ノースウエスタン大学でPAI-1を過剰発現するトランスジェニックマウスを作成したところ、脱毛が著しいことが明らかとなりました。当社のPAI-1阻害薬RS5441を当該マウスに与えたところ、著明な発毛が認められました。RS5441の投与により総毛包数が93.5%増加し、退行期の毛包数は64%減少しましたが、成長期と休止期の毛包数はそれぞれ62%と80%増加し、8週間の投与期間にわたって外観は正常化しました。幹細胞特性を持つCD34陽性静止幹細胞は、トランスジェニック毛包には存在しませんでした。また、K15陽性の上皮幹細胞プールはトランスジェニック毛包で枯渇しており、成長期の毛包の増殖細胞を染色するKi67抗体による組織染色やBrdU標識実験は、トランスジェニック毛包の細胞増殖率の大幅な増加を示しておりました。以上のことから、PAI-1のトランスジェニック過剰発現は、脱毛症及び毛包の循環と成長の障害に関連しており、PAI-1阻害薬が脱毛症の予防と治療に役立つ可能性を強く示唆しました。
ヒト男性脱毛症(AGA)の頭皮ではPAI-1発現が亢進、
PAI-1を過剰発現したマウスは育毛しない
→RS5441はこのマウスにおいて明らかな発毛効果を認めた
これらの研究結果に、本薬剤を実用化するために米国Eirion社と2016年10月31日付でライセンス契約を締結しました。
導出先であるEirion社によって、これまでに以下の成績が取得されています。
男性型脱毛症患者の頭皮組織移植片60検体を5%溶液 ET-02(主成分RS5441)に暴露した非臨床試験では、ET-02 による治療4ヶ月目の発毛率は、同じ実験移植モデルを用いた標準治療薬ミノキシジル (n=103) による発毛率の4倍高いという結果が得られました。
2024年7月1日、外用薬 ET-02(主成分RS5441)の男性型脱毛症 (加齢性脱毛症)治療に対する安全性と有効性を評価する第Ⅰ相臨床試験が開始されました。 この二重盲検プラセボ対照試験は、プラセボ、ET-02の 1.25 %または5%溶液のいずれかで 構成される二重盲検プラセボ対照試験を米国の3つの医療機関、合計24人の被験者で実施しました(1日1回の外用、28日間投与)。
第Ⅰ相臨床試験の結果は、非臨床試験で確認された 5 % ET-02 の有効性を実証しています。エイリオン社は、ET-02の安全性と有効性を確認することを目的とする第Ⅱ相臨床試験(n=150)を準備中です。