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非小細胞肺がん 第Ⅱ相試験プロトコールに関する論文掲載のお知らせ

当社 PAI-1 阻害薬 RS5614の非小細胞肺がん*1第Ⅱ相医師主導治験のプロトコールに関する論文が科学誌「Journal of Thoracic Disease」に掲載されましたのでお知らせいたします。

Masuda T, Hirata T, Sakamoto T, Tsubata Y, Ichihara E, Kozuki T, Shoda H, Motonaga M, Yoshida T, Fukutani M, Tsuji-Takayama K, Tamura A, Amagase H, Fujihara H, Aoki G, Akita T, Orihashi Y, Miyata T, Hattori N.

Treatment rationale and protocol design: an investigator-initiated phase II study of combination treatment of nivolumab and TM5614*2, a PAI-1 inhibitor for previously treated patients with nonsmall cell lung cancer.

J Thorac Dis 2024;16(5):3381-3388 | https://dx.doi.org/10.21037/jtd-23-1858

肺癌は悪性腫瘍死の1位を占め年々増加しています。肺癌の種類の中で非小細胞肺癌は最も多く85%を占め、その約半数がドライバー遺伝子*3変異陽性であり、これらの症例には分子標的治療薬が使用されています。一方で、我が国に年間23,000人発症する分子標的治療薬が適応とならないドライバー遺伝子変異陰性進行非小細胞肺癌の予後は悪いです。初回標準治療はプラチナ製剤*4併用化学療法とニボルマブ*5等の免疫チェックポイント阻害薬*6を用いた免疫療法であり、2次治療としてドセタキセル*7の化学療法が実施されるが、治癒に至る症例は極めて少ないです。続いて、3次治療が行われる症例は約30%の6,000人以上と多くの患者が対象となりますが、標準治療が定まっておらず、有効な治療方法の開発が喫緊の課題です。3次治療として、ニボルマブも選択肢となりますが、ニボルマブ既治療例におけるニボルマブ再投与の効果は限定的です。ニボルマブの効果を増強するために、抗CTLA-4抗体イピリムマブ*8との併用治療の開発も行われますが、致死的な免疫関連副作用も報告され、近年の非小細胞肺がんにおける化学療法とニボルマブ・イピリムマブ併用の臨床試験では死亡例が多発したため試験が中止となりました*9。ニボルマブとイピリムマブは共に抗体医薬であるために入院注射が必要で利便性も悪く、また合成コストも高額な医薬品でもあり、国の医療経済性の面でも大きな課題となっています。分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬(抗体医薬)の登場以来、がん治療も大きく変遷しましたが、奏効率、安全性、医療経済性など解決しなければならない課題は多いです。そこで、副作用が少なく、ニボルマブの奏効率を上昇させる併用薬が待ち望まれています。

当社は、内服薬であるRS5614が免疫チェックポイント阻害作用を有すること、またニボルマブとの併用でさらにその効果が増強されることを見出し、外科的に根治切除が難しくニボルマブが無効な悪性黒色腫患者を対象とする第Ⅱ相医師主導治験で、ニボルマブと RS5614との併用の有効性及び安全性を確認しました(2023年8月16日付開示)。

そこで、本プロジェクトでは複数の抗がん剤治療歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)39例を対象に、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討するための第Ⅱ相医師主導治験を、広島大学病院、岡山大学病院、島根大学医学部付属病院、鳥取大学医学部付属病院、四国がんセンター、広島市立広島市民病院の6医療機関で実施しております(2023年9月23日付開示)。この第Ⅱ相医師主導治験のプロトコールに関する論文が科学誌「Journal of Thoracic Disease」に掲載されましたのでお知らせいたします。

*1 非小細胞肺がん
肺がんはがん死亡原因のトップである予後不良の疾患です。日本における肺がんの罹患数(2019年)は、男性84,325人、女性42,221人であり、死亡数(2020年)は男性53,247人(男性1位)、女性22,338人(女性2位)で、肺がんの80-85%が非小細胞肺がんです。

*2 TM5614
RS5614(PAI-1阻害薬)の臨床開発番号

*3 ドライバー遺伝子
がんに関する研究の結果、がん細胞は正常の細胞に比べて、ある種の遺伝子やタンパク質に異常が認められる、あるいは量が増加していることがわかってきました。この異常な遺伝子は、「がん遺伝子」と呼ばれ、がん化やがんの増殖の原因になっていると考えられています。特に、がんの発生や進行に直接的な役割を果たす遺伝子を「ドライバー遺伝子」と呼びます。

*4 プラチナ製剤
肺がんの治療に用いられる抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)の一種です。がん細胞内の遺伝子本体であるDNAと結合することにより、がん細胞の分裂を止め、やがて死滅させます。シスプラチン、カルボプラチンなどが含まれます。

*5 ニボルマブ
プログラム細胞死1(PD-1)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)で、免疫系の抑制解除による抗がん作用を狙った医薬品です。代表的な免疫チェックポイント阻害薬です。

*6 免疫チェックポイント阻害薬
免疫の恒常性を保つために、自己に対する免疫応答を阻害し過剰な免疫反応を抑制する分子群として免疫チェックポイント分子が発見されました。免疫チェックポイント分子はリンパ球の過剰な活性化を抑制して自己を攻撃させないために存在しますが、がん細胞は免疫系からの攻撃を回避するために免疫チェックポイント分子を悪用します。現在、PD-1、CTLA-4などさまざまな免疫チェックポイント分子が同定されています。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイント分子の作用を阻害する医薬品で、現在治療薬として用いられている薬剤はすべて免疫チェックポイント分子に直接結合しそれを阻害する抗体医薬です。

*7 ドセタキセル
植物成分を原料として半合成された化合物です。細胞が分裂する際に必要な細胞構成成分の一つである微小管を安定化及び過剰発現させることにより、がん細胞の増殖を阻害します。

*8 イピリムマブ
細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬(ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体)で、ニボルマブとは異なる標的の免疫チェックポイント阻害薬です。

*9 化学療法とニボルマブ・イピリムマブ併用臨床研究
3次治療ではありませんが、未治療進行・再発非小細胞肺がんを対象とした第Ⅲ相多施設共同臨床試験(JCOG2007試験、特定臨床研究)において、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ・イピリムマブ併用療法を行った患者で、治療との因果関係を否定できない死亡が予期していた範囲を超える約7.4%(148人のうち11人)で認められ、2023年3月30日に本試験は中止されました。