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当社PAI-1阻害薬RS5614の免疫チェックポイント阻害作用に関する論文掲載のお知らせ

当社 PAI-1 阻害薬 RS5614の免疫チェックポイント阻害作用に関する論文が科学誌「Frontiers in immunology」に掲載されましたのでお知らせいたします。
Ibrahim AA, Fujimura T, Uno T, Terada T, Hirano K, Hosokawa H, Ohta A, Miyata M, Ando K, Yahata T.

Plasminogen activator inhibitor-1 promotes immune evasion in tumors by facilitating the expression of programmed cell death-ligand 1

Frontiers in immunology 2024 online. (https://doi.org/10.3389/fimmu.2024.1365894)


がんの治療の基本は、①外科的療法、②放射線療法、③化学療法(抗がん剤)、④免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)です。人体は、外来のウイルス、細菌、微生物から体を守る免疫というシステムを持っていますが、体内には過剰な免疫を抑制する免疫チェックポイント分子1が備わっています。がんはこの免疫チェックポイント分子を悪用することで自分自身に対する免疫が働かないようにしています。免疫チェックポイント阻害薬2は、この免疫チェックポイント分子を阻害することで、ブレーキを解除して免疫ががんを攻撃できるようにします。代表的な免疫チェックポイント阻害薬として、プログラム細胞死1(PD-1)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬ニボルマブや細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬イピリムマブが様々ながんの治療に用いられています。
がん組織でのプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の発現量が高いほどがんの予後が悪いこと(“PAI-1パラドックス“)が知られていましたが、そのメカニズムは不明でした。
当社は、東海大学及び東北大学との共同研究により、PAI-1が様々ながん細胞やがん組織浸潤した細胞に免疫チェックポイント分子であるプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)の発現を誘導し免疫応答を妨害すること、また逆にPAI-1阻害薬RS5614がPD-L1の発現を阻害し免疫応答を賦活化することを発見しましたが、その論文が科学誌「Frontiers in immunology」に掲載されました。大腸がんモデルなどにおいて、RS5614は抗腫瘍免疫を活性化することで腫瘍の増殖を阻害し、また既存の免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体との併用で相乗的に抗腫瘍効果を示しました。RS5614は、がん細胞を傷害するT細胞の腫瘍組織への浸潤を促進し、逆にがん免疫を抑
制する制御性T細胞、M2マクロファージ、がん関連線維芽細胞の浸潤を阻害しました。このように、RS5614はがん組織における免疫環境を改善することにより抗腫瘍効果を示します。この作用はPAI-1パラドックスの機序の一つとして重要な発見と考えられます。
RS5614の免疫チェックポイント阻害作用に基づき、外科的に根治切除が難しい悪性黒色腫(メラノーマ)を対象に、RS5614とニボルマブとの併用の有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相医師主導治験(“本治験”)を、東北大学病院、筑波大学附属病院、東京都立駒込病院、名古屋市立大学病院、近畿大学病院、熊本大学病院と共同で実施しました。その結果、ニボルマブが無効な悪性黒色腫を対象とした2次治療において、RS5614とニボルマブの併用の有効性及び安全性が確認できました(奏効率: 24.1%;重篤な有害事象: 5.9%、2024年2月22日開示)。
悪性黒色腫のニボルマブ無効例の2次治療においては、ニボルマブとイピリムマブの併用療法が承認されていますが、ニボルマブとRS5614の併用はこの既存治療と同等若しくは上回る有効性を示しました。また、ニボルマブとイピリムマブとの併用では投与中止となる重度の免疫関連副作用が半数以上で出現し、その頻度はニボルマブ単剤より4倍と高く、数か月に及ぶ入院やがんに対する治療の停止が必要となることが問題になっています。このように、RS5614は、有効性と安全性に優れたニボルマブ併用薬として、根治切除不能な悪性黒色腫の治療に有用であり、また、抗体医薬と異なり経口投与可能な低分子医薬品であるため経済性・利便性も高いと考えられます。
本治験におけるRS5614の有効性と安全性の確認を受け、RS5614の免疫チェックポイント阻害作用に基づく非小細胞肺がん3や皮膚血管肉腫4など、他の固形がんに対する第Ⅱ相医師主導治験も開始しました(非小細胞性肺がん、2023年9月開始;皮膚血管肉腫、2023年10月開始)。

*1 免疫チェックポイント分子
免疫の恒常性を保つために、自己に対する免疫応答を阻害し過剰な免疫反応を抑制す る分子群です。免疫チェックポイント分子はリンパ球の過剰な活性化を抑制して自己 を攻撃させないために存在しますが、がん細胞は免疫系からの攻撃を回避するために 免疫チェックポイント分子を悪用します。現在、PD-1、CTLA-4などさまざまな免疫チェックポイント分子が同定されています。

*2 免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント分子の作用を阻害する医薬品で、現在治療薬として用いられて いる薬剤はすべて免疫チェックポイント分子に直接結合しそれを阻害する抗体医薬で す。

*3 非小細胞肺がん
肺がんと新たに診断される人は年々増加しており、2018年には約12万3000人(男性 約8万2000人、女性 約4万1000人)とされ、全てのがんで、死亡数がもっとも多いがんです。肺がんの8割程度が非小細胞肺がんです。ドライバー遺伝子(がんの発生や進行に直接的な役割を果たす遺伝子)に変異がない進行非小細胞肺がんに対する1次治療には、プラチナ製剤による化学療法と免疫チェックポイント阻害抗体が用いられていますが、治癒に至る症例は少ないことが課題になっています。そこで、2次治療としてドセタキセル等の化学療法が実施されますが、がんが進行せず安定した状態は3か月と短く、3次治療が必要となります。3次治療としては、免疫チェックポイント阻害抗体のニボルマブとイピリムマブの併用療法が選択肢となっていますが、免疫に関連した副作用が増えること、さらに2つの抗体を用いるため医療費が高額となることなどの課題が問題となっています。悪性黒色腫と同様に、RS5614が有する免疫チェックポイント阻害作用に基づいて、2023年9月26日から広島大学などと共同で第Ⅱ相試験を実施しています。2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした第Ⅱ相医師主導治験です。

*4 皮膚血管肉腫
皮膚血管肉腫は、血管内側の細胞(血管内皮細胞)が、がん化したものです。血管肉 腫は、やわらかい組織(軟部組織)にできる腫瘍の中でも極めてまれですが悪性度の 高い腫瘍です。悪化する可能性が高いため、すぐに複数の治療を組み合わせて実施す べきとの考えが強く、各施設で可能な治療を、病期を問わず実施されています。PAI-1は血管内皮細胞に強く発現しており、その腫瘍である血管肉腫もPAI-1を高発現しています。また、その発現頻度が高い患者では1次治療で用いられるタキサン系の抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤は血管肉腫 にアポトーシスと呼ばれる細胞死を誘導しますが、PAI-1 を高発現しているがん細胞 はアポトーシスを起こしにくいことが分かっています。そこで、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫に対する治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。2023年10月26日からタキサン系の抗がん剤であるパクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者を対象に、パクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を実施しています。