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新型コロナウイルス肺傷害 後期第Ⅱ相試験結果に関する論文掲載のお知らせ

当社 PAI-1 阻害薬 RS5614の新型コロナウイルス肺傷害 後期第Ⅱ相試験結果が科学誌「Scientific Reports」に掲載されましたのでお知らせいたします。

Hirai T, Asano K, Ito I, Miyazaki Y, Sugiura H, Agirbasli M, Kobayashi S, Kobayashi M, Shimada D, Natsume I, Kawasaki T, Ohba T, Tajiri S, Sakamaki F, Mineshita M, Takihara T, Sekiya K, Tomii K, Tomioka H, Kita H, Nishizaka Y, Fukui M, Miyata T, Harigae H. A randomized double-blind placebo-controlled trial of an inhibitor of plasminogen activator inhibitor-1 (TM5614*1) in mild to moderate COVID-19. Scientific Reports. 2024 online. (http://doi.org/10.1038/s41598-023-50445-1)

当社が開発中のPAI-1阻害薬RS5614は、肺の炎症、線維化、血管障害を抑制しますので、新型コロナウイルスをはじめとする様々な原因による間質性肺疾患に有効と考えられます。

新型コロナウイルス肺炎患者に対するRS5614の有効性と安全性を探索的に検討するために国内7か所の医療機関と共同で前期第Ⅱ相医師主導治験を実施し、その結果、主要評価項目である「人工呼吸器管理が必要となる悪化の有無」が全例で「無し」であったこと、また、治験薬と因果関係が否定できない重篤な副作用がなかったことから、RS5614の重症化阻止効果及び安全性が示唆されました。そこで、前期第Ⅱ相試験の結果に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20か所の主要な医療機関、及びトルコ共和国イスタンブールメディニエット大学と共同で、新型コロナウイルス肺傷害患者(中等症、入院患者)100名を対象とするプラセボ対照後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本試験は2021年6月から開始し、感染者数が激減した時期があったことやオミクロン株*2の出現により対象となる新型コロナウイルス肺傷害患者(中等症、入院患者)が減少したために、2022年10月末まで治験を延長し(登録症例数75例)、2023年4月に治験総括報告書が完成しました。

有効性の主要評価項目である「酸素化の悪化指標スケールの総和*3」は、登録症例数が75例と少なかったこともありRS5614群とプラセボ群の間に統計学的な有意差は認められませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で肺傷害悪化の抑制が見られ、特に、中等症の中でも、入院時点で肺炎所見があり呼吸困難はあるが酸素治療を必要としない中等症I*4の患者において、酸素治療の必要性の低減(重症化の阻止)が見られました。さらに、被験者全体でも酸素の投与が必要となる症例の割合が、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療におけるRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、新型コロナウイルス肺傷害患者に対するRS5614の安全性も確認できました。今後、変異株等で対象となる肺炎患者が増加した場合に速やかに次相の治験を開始できるように準備しています(2023年4月11日PMDA 相談実施済)。

その他の間質性肺疾患における開発として、京都大学医学部附属病院呼吸器内科と特発性間質性肺炎*5の急性増悪を対象とする臨床試験の実施を視野に入れた共同研究を開始しています(2022年12月23日)。また、抗がん剤治療などから生じる間質性肺炎に対する本医薬品の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、第一三共株式会社との契約も延長しました(2022年11月28日)。さらに、肺傷害領域での研究開発を展開するために、京都大学及び第一三共と当社の3者での共同研究契約を締結しました(2023年6月5日)。さらに、全身性強皮症*6に伴う間質性肺炎に対するRS5614の有効性と安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第II相医師主導治験を、日本医療研究開発機構の助成を受け、東北大学病院、東京大学医学部附属病院など国内の11の医療機関と共同で開始しました(2023年10月19日)。

*1       TM5614

           RS5614(PAI-1阻害薬)の臨床開発番号

*2       オミクロン株

オミクロン株は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株の一つです。日本では、最初に中国武漢市で発見された従来株が広がり、続いてアルファ株、そしてデルタ株が流行しました。2022年初め以降はオミクロン株が主流となっていますが、その大きな特徴は感染力の強さです。オミクロン株によって日本では第6波、7波、8波の流行が起こり、現在まで多くの亜系統が報告されています。オミクロン株の感染はデルタ株に比べて相対的に入院や重症化のリスクが低いことが示されています。

*3       酸素化の悪化指標スケールの総和

治験開始から 14 日後までの 酸素投与療法や人工呼吸器管理が必要となる酸素化を評価するスコアの合計であり、呼吸器専門家や 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を経て、科学的かつ医学的妥当性を踏まえた上で設定した評価指標です。被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0 点)~人工呼吸器エクモ装着(5 点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較しました。

*4       中等症I

新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き、第 9.0 版に記載された通りです。

・中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が 93%から 96%の間で、呼吸困難や 肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ

・中等症Ⅱ:血中の酸素の値が 93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ

・重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ

*5       特発性間質性肺炎

間質性肺炎の原因には、関節リウマチや皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、抗がん剤などの薬剤、特殊な感染症など様々あることが知られていますが、いろいろ詳しく調べても原因がわかららない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」といいます。

*6       全身性強皮症

全身性強皮症(SSc)は、皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化という。)を特徴とし、慢性に経過する自己免疫疾患です。難病に指定された疾患であり、日本では2万人以上の患者が確認されています。