開発状況

血液がん:慢性骨髄性白血病(CML)治療薬


血液がんの一種である慢性骨髄性白血病(CML)は、血液細胞の元になる細胞(造血幹細胞)の遺伝子に異常が起こり、がん化した白血病細胞(CML細胞)が無制限に増殖することで発症します。

現在の治療と課題

CMLに対する治療薬は、抗がん剤であるチロシンキナーゼ阻害薬TKI(イマチニブなど)が主流です。TKIの開発によりCML患者の生存率は大きく改善しました。しかし、TKIはCML細胞には作用しますが、「骨髄ニッチ」と呼ばれる骨髄内の部位に潜むCML細胞の元になる細胞(CML幹細胞)には作用しないことから、TKIを休薬するとCML細胞に変化して再発します。そこで、CMLを治癒するためには長期にわたる高額なTKI治療の継続が必要であり、また、副作用も問題となっています。したがって、可能な限り早期にTKI服用を必要としない治癒に導くことが重要です。

最近、血中のCML遺伝子異常がほとんど検出されない状態(深い寛解状態、DMR)が一定期間継続しているCML患者では、TKIを中止しても再発がない状態が得られることが明らかになりましたが、3年間という最短の治療期間で始発がない状態を目指すことのできる患者の割合は5〜10%にしか過ぎません。更に、再発がない状態を達成する条件として、DMR到達後少なくとも2年以上のDMRの維持が必要とされています。

当社のソリューションの特徴

当社薬剤はCML幹細胞に作用して、骨髄ニッチから遊離させます。遊離したCML幹細胞はCML細胞に変化してTKIの作用を受けるために、骨髄ニッチのCML幹細胞は消滅して、CMLの根治をもたらすことが可能であることが明らかとなりました。実際に、CMLモデルマウスにRS5614とTKI(イマチニブ)を併用すると、イマチニブ単独投与に比べて骨髄に残るCML幹細胞数が著明に減少し、生存率が大きく向上しました。

RS5614はTKIとの併用によって、早期に多くのCML患者を完全治癒に導き、薬剤治療を不用にする新たな作用機序の安全な医薬品と期待されます。

これまでの成績

前期第Ⅱ相試験

TKI治療を2年間以上実施しているCML患者を対象に、東北大学、東海大学、秋田大学において前期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。CML患者21例にTKIとRS5614(1日1回 120 mgを内服)を4週間併用投与し12週間後に血中のCML遺伝子異常がほとんど検出されない状態(深い寛解状態、DMR)を評価しました。その結果、これまでのTKI治療だけのデータ(論文データ、ヒストリカルコントロールと言います)では、12週後に2.0%がDMRを達成できるのに対して、RS5614併用では21 例中DMR を達成した症例は4 例で、12 週時の累積DMR達成率は20.0%でした。安全性は、解析の対象となった21例すべてにおいてRS5614が原因の副作用は認められませんでした。

後期第Ⅱ相試験

TKIとRS5614(1日1回 150 mgを内服、180 mgへ増量可能)を48週間併用投与しDMR達成率を指標とする医師主導治験を、CML患者33例を対象に東北大学、東海大学、秋田大学において実施しました。その結果、累積DMR達成率は33.3%(33例中11例)と、TKIだけの48週治療で得られているヒストリカルコントロール8.0%より有意に高く、RS5614の有効性が確認できました。安全性は、RS5614が原因の重篤な副作用はありませんでした。本試験結果は、科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。

[RS5614のCML第Ⅱ相試験成績]

試験被験者数RS5614 投与期間累積DMR 達成率ヒストリカル
コントロール
前期第Ⅱ相試験21例4週20.0%2%
後期第Ⅱ相試験33例48週33.3%8%

今後の予定

後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、慢性期のCML患者を対象にTKI+RS5614とTKI+偽薬(プラセボ)の併用効果を比較するプラセボ対照の第Ⅲ相医師主導治験を、TKI治療期間が3年以上のCML患者60例を対象として、東北大学、東海大学、秋田大学など12の医療機関と共同で実施しています。CML患者の薬剤治療を不用にするには2年間以上のDMR維持が必要とされており、TKI+RS5614がTKI+偽薬に対して有意に上昇させることを検証します。