2023年7月26日から30日まで台湾の台北において開催されたBio Asia-Taiwan Asian Biotechnology Conference 2023において、東北大学大学院医学系研究科宮田敏男教授(当社取締役会長を兼務)が、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)阻害薬の概要について講演しました。Global Bio Investment環球生技月刊誌2023年8月25日号に、Bio Asiaでの日本からの革新的な医療イノベーション研究の1つとして、上記講演並びに宮田会長のインタビュー記事が掲載されましたのでお知らせいたします。
(講演概要)
- 凝固線溶系を超えたPAI-1の新たな役割の発見
- 老化関連疾患(がん、呼吸器疾患、循環器疾患、糖尿病)治療薬としてPAI-1阻害薬が有用であることを見出した。
- PAI-1阻害薬RS5614
- コンピューター工学による200万を超える化合物のバーチャルスクリーニング及び数多くのPAI-1阻害化合物の合成とスクリーニングによるRS5614の獲得
- RS5614は有効性安全性に優れた経口PAI-1阻害薬、200名を超える被験者での安全性確認(1年間投与でも安全性に問題なし)、現在、世界で最も開発が進んだPAI-1阻害薬
- RS5614の阻害機序:PAI-1のビトロネクチン結合部位に結合しPAI-1を不安定化
- 血液がん(慢性骨髄性白血病)におけるPAI-1の役割
- 造血幹細胞及び慢性骨髄性白血病幹細胞では、細胞内PAI-1が細胞内蛋白質加工酵素を阻害し、その結果これらの細胞を骨髄内のニッチと呼ばれる特殊な場所にとどめている。
- RS5614は、PAI-1を阻害することで慢性骨髄性白血病幹細胞を骨髄ニッチから追い出し、抗がん剤に感受性にする。つまりRS5614と抗がん剤を併用することで慢性骨髄性白血病細胞だけでなくその幹細胞も除去し、抗がん剤だけでは達成が難しい根治につながる治療法となりうる。
- 後期第Ⅱ相試験で上記コンセプトを証明し(POC取得)、検証試験である第Ⅲ相試験を実施中
- 固形がんにおけるPAI-1の役割
- PAI-1はがん細胞に免疫チェックポイント分子を誘導し、がんに対する免疫の攻撃を阻害する。
- RS5614は免疫チェックポイント分子を抑制し、がん免疫を活性化する(免疫チェックポイント阻害薬)。
- 悪性黒色腫モデル、大腸がんモデル、肺がんモデルでRS5614はがん免疫を活性化し腫瘍の増殖を阻害した。また、既存の免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体の作用を増強し相乗的にがん免疫を活性化した(がん腫によっては併用によりがんが消失)。
- 抗PD-1抗体ニボルマブに不応答の悪性黒色腫患者第Ⅱ相試験において、ニボルマブとRS5614併用は、既存薬であるニボルマブ+抗CTLA4抗体イピリムマブを上まわる有効性と安全性を示した(ニボルマブ+RS5614奏効率が24.1%であったのに対してニボルマブ+イピリムマブ奏効率は13.5%;POC取得)。
- このコンセプトに基づき、さらに非小細胞肺がんおよび皮膚血管肉腫第Ⅱ相試験を実施予定
- 老化におけるPAI-1の役割
- 老化した細胞はp53に加えてPAI-1を高発現する。老化細胞は増殖能を失うがPAI-1を阻害することで増殖できるようになる。
- 細胞だけではなく、早老症患者や早老モデルマウス(klothoマウス)でもPAI-1が高発現しており、klothoマウスでPAI-1を阻害すると加齢に伴う様々な症状が改善される。
- 米国アーミシュ移民の疫学調査の結果、PAI-1遺伝子を欠損する人はそうでないひとよりも約10年長生きし、糖尿病など老化に伴う疾患も少ない。
- 近年、老化細胞が免疫チェックポイント分子を発現すること、免疫チェックポイント阻害薬を老化モデルに投与すると老化細胞が除去され老化に伴う様々な症状を改善することが示された。PAI-1は免疫チェックポイント分子を誘導することで老化に関与している可能性があり、PAI-1阻害薬はこれを改善する可能性が示唆される。
Global Bio Investmentインタビューでは、レナサイエンスを設立した経緯、またレナサイエンスのオープンイノベーションでの開発を重視した取り組み、国内外の研究機関、医療機関との積極的な連携についても紹介されました。「医療の問題点を発見し、仮説を立て、基礎研究で科学的根拠を獲得し、医師主導治験で検証を行うことが、新たな医療価値を生み出すために非常に重要である」また「学界、産業界、異なる科学分野の専門家が最初から協力できるネットワークと枠組みを構築することが重要です」と紹介されました。