当社は東北大学と共同で人工知能(AI)を活用した嚥下(えんげ)機能低下を評価するプログラム医療機器を開発しています。共同研究者である東北大学大学院歯学研究科の金髙弘恭教授の、本プロジェクトに関するインタビュー記事が2023年1月1日号科学新聞に掲載されましたのでお知らせいたします。
(本プロジェクトの概要)
食べ物や飲み物、あるいは唾液などを飲み込むことを嚥下(えんげ)といい、健康な人であれば、嚥下すると口から食道を通って胃に入っていきます。しかし嚥下機能が低下すると、食べ物などが口から気管に入ってしまい、これを誤嚥(ごえん)といいます。日本人の死因で常に上位の一つが肺炎ですが、特に高齢化が進んだ近年は、細菌が唾液や食べ物などと一緒に誤嚥され、気管支や肺に入ることで発症する誤嚥性肺炎の割合が増加しており、死因となった肺炎の約7割が誤嚥に起因すると報告されています。誤嚥性肺炎を予防するには、早期に嚥下機能の低下を診断し、嚥下機能改善のためのリハビリテーションを行うことが有効ですが、嚥下内視鏡検査や嚥下透視検査が確定診断に必要とされ、いずれの検査方法も専用の設備等が必要ですので、検査を実施できる医療機関が限られており、また費用面も含め患者さんの負担が大きくなっています。
「嚥下」と「話す」で使用する器官、舌や口腔・咽頭など共通部分が多いことに着目し、当社は東北大学と共同で、嚥下機能評価の代替として、音声から嚥下機能低下の判定を支援する医療用プログラムを開発しています。 実際に、言語聴覚士は嚥下障害の治療に発声発語訓練を用いており、嚥下と構音の関連性は大きいと考えられます。内視鏡や透視装置を用いずに、音声から嚥下機能が評価できれば、検査の普及に大きく貢献すると期待されます。しかし、現状の構音評価は言語聴覚士5名による聴き取りを必要とするため数多くの被験者への対応が難しく、また客観性の問題があると考えられます。
健常者の発音を性別、年齢差、個人差、単語の差等で分類し、独自のAIエンジンを用いて健常者構音(発音)のベースライン解析を完了しました。今後、嚥下機能障害を有する被験者を音声で健常者と判別するための実用化開発を実施します。
会話時の音声データから嚥下機能障害を診断できるAIが開発できれば、言語聴覚士・医師・歯科医師など医療従事者の労働時間削減など、医療現場の負担軽減につながるだけでなく、重点的にケアすべき入院患者さんを特定することで、最適な医療の提供も可能になります。また、加齢によって筋力低下が始まると、口腔機能も衰えることが知られておりオーラルフレイルと呼ばれています。このオーラルフレイルにより食べられなくなると、そこから悪循環が始まり全身性の筋肉虚弱(フレイル)になっていくという考え方が提唱されています。AIで嚥下機能の低下した患者さんをスクリーニングできれば、早期診断・治療に結びつけることが可能で、これからの高齢化社社会において健康寿命を延ばすことも可能になると期待されます。
なお、科学新聞の記事は以下のリンクをご覧ください。