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当社の老化の取り組みに関する記事が掲載されました

2025年1月31日に当社の老化の取り組みに関する記事が科学新聞に掲載されました。補足の説明も加えて、お知らせいたします。

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日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。当社は、細胞老化を分子レベルで解明し、老化関連疾患を治療し、健康寿命を伸ばすための医薬品の開発を目指しております。これまで米国ノースウエスタン大学や東北大学と共同研究を行い、下記の一連の事実を明らかにしました。

  • 生物の細胞は、細胞老化と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。この現象には、遺伝子のテロメア長の短縮、p53, p21, p16などの細胞老化因子が関与しています。老化した細胞は、p53に加えて、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1の発現が極めて高いことが分かっています。当社が開発したPAI-1阻害薬は、p53, p21, p16を抑制して、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞老化を阻害します(Oncotarget, 2016)。
  • 当社が開発したPAI-1阻害薬は、ヒトの早老症であるハッチンソンーギルフォード症候群(指定難病333)の線維芽細胞のDNA損傷を減少し、ミトコンドリア障害を改善し、ハッチンソンーギルフォード症候群の細胞異常を是正します(Cell Death and Disease, 2022)。
  • 細胞のみならず、老化した組織や個体(マウス、ヒト)では、PAI-1の発現が高いことが知られています。東北大学と米国ノースウェスタン大学との共同研究において、老化モデルとして有名なklothoマウスを用いた非臨床試験で、PAI-1阻害薬はklothoマウスの老化主症状を改善します(Proc Natl Acad Sci USA. 2014)。
  • 米国に生活するアーミッシュの血液を検査し、PAI-1遺伝子を欠損している者が多数存在していることを確認し、これらのPAI-1遺伝子欠損者が同遺伝子保有者比べて10年程度寿命が長いことを報告しました(Science Advances, 2017)。このヒトでの疫学調査は、細胞やマウスでの実験結果とも一致しています。この事実は2017年11月21日のニューヨークタイムズの記事(November 11, 2021)で紹介されました。
  • 加齢と共に、がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨・筋肉(骨粗鬆症、サルコペニア)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)などの関連した様々な疾患が発症します。興味深いことに、これら疾患の臓器ではPAI-1の発現は極めて高く、当社のPAI-1阻害薬を投与することで病態が改善できることが国内外の多くの大学との共同研究から明らかとなりました(下図に共同研究成績一覧を記載)。

< 図 PAI-1に関する共同研究成績一覧 >

疾患文献共同研究
がん(慢性骨髄性白血病)□ Blood 2012 □ Stem Cells. 2014 □ Blood. 2017 □ Biochem ,Biophys Res Commun. 2019 □ Haematologica 2021 □ BBRC 2021 □ Tohoku J Exp Med. 2022 □ Cancer Med. 2023□ 東京大学、東北大学 □ 東海大学、東北大学 □ 東海大学、ノースウェスタン大学、東北大学 □ 東海大学、東北大学、国立がんセンター中央病院 □ 東海大学、ノースウェスタン大学、広島大学、東北大学 □ 東海大学、東北大学 □ 東北大学、東北大学病院、ART □ 秋田大学、東海大学、東北大学、岩手医科大学
がん(悪性黒色腫)□ PLoS One. 2015 □ Cancer Biol Ther. 2015□ 南カリフォルニア大学、東北大学 □ 東北大学、山形大学
肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)□ Arterioscler Thromb Vasc Biol 2008 □ Am J Respir Cell Mol Biol 2012 □ Proc Natl Acad Sci USA. 2014 □ PLos One 2015 □ Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2016 □ Am J Respir Cell Mol Bio 2020 □ Environ Pollut 2021□ 東海大学、東京大学、筑波大学、ルーヴァンカトリック大学、東北大学 □ アラバマ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、東北大学 □ ノースウェスタン大学、東北大学 □ ノースウェスタン大学、シカゴ大学、東北大学 □ アラバマ大学、東北大学 □ アラバマ大学、東北大学 □ ノースウェスタン大学、東北大学
血管(動脈硬化)□ Circulation. 2013 □ Oncotarget. 2016 □ Science Advances. 2017□ ノースウェスタン大学、東北大学、サンフォードバンナム研究所 □ ノースウェスタン大学、東北大学 □ ノースウェスタン大学、ニュージャージー医科大学、ブリティッシュコロンビア大学、インディアナ血友病血栓症センター、東北大学
代謝(糖尿病、肥満)□ Br J Pharmacol 2016 □ Oncotarget 2017 □ Hepatol Commun 2018 □ Front Pharmacol 2020 □ Mol Med Rep 2020 □ Science Reports 2021 □ Obesity 2021      □ 梨花女子大学、全南大学、東北大学 □ 梨花女子大学、東北大学 □ ノースウェスタン大学、東北大学 □ 東北大学 □ 奈良県立医科大学、東北大学 □ ノースウェスタン大学、オレゴン健康科学大学、ジェシーブラウン退役軍人メディカルセンター、東北大学 □ ノースウエスタン大学、ジェシーブラウン退役軍人メディカルセンター、東北大学
骨・関節(骨粗鬆症、変形性関節症)□ FEBS Open Bio 2018 □ BBRC 2021□ 東京医科歯科大学、延辺大学、東北大学 □ 東京医科歯科大学、東北大学、国立障害者リハビリテーションセンター
脳(アルツハイマー病等)□ PLoS One 2015 □ J Alzheimers Dis 2018□ ノースウェスタン大学、セントルーク大学病院、東北大学 □ アラバマ大学、東北大学
腎臓(慢性腎臓病)□ Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2013 □ PLos One 2016□ 東京大学、南方医院、ノースウェスタン大学、ルーヴァンカトリック大学、東北大学 □ 梨花女子大学、キム医院、東北大学

当社は東北大学TREx内に、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Instituteの日本研究室を開設する実施予定です。TREx-Longevity Labでは、ヒトの生物学的年齢の測定、臓器(免疫系、新血管系、神経系、代謝系、筋骨格系)の老化指標解析、老化バイオマーカー探索(エピゲノム、プロテオーム、トランスクリプトーム)に取り組み、さらに当社が有する老化を制御し、健康寿命を伸ばすための医薬品を評価する臨床試験の実施にも取り組む予定です。

また、月面探査コンテストなどで知られるXプライズ財団による「米国の高齢者の認知や筋肉などを10年若返らせたら賞金1億ドル」というコンテスト(X PRIZE HEALTHSPAN)に東北大学、東海大学、広島大学などと共同で申請しております。本コンテストの責任者であるXプライズ財団取締役のジェイミー・ジャスティス氏は、「この10年ほどの間、老化・長寿の研究にとても大きな成長がありました。このコンテストを始めることによって、この分野は機が熟したと示すことができます。目標は、世間の注目を集めて、この新しい分野において投資のための場所があることを確実にし、そして学界、非営利部門、企業の科学者が開発のための滑走路を得られるような共通の枠組みを作ることです」と語っている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240903/k10014569311000.html)。

これからも人類の最大の課題である長寿について、我々の化合物を用いて挑んでまいります。